養殖マグロは、生存率や生産コストの高さなど改善しなければならない問題が多く、消費者に届くまでの価格を下げる事が難しい魚でした。
2017年、人口飼料生産の養殖マグロが本格的な出荷を迎えた事で、生産コスト面での改善に注目が集まっています。
■生産コストの改善と品質の向上を目指して
クロマグロは、与えたエサの量に対して体重が増えにくい魚です。
体重増加の効率は餌料効率や増肉係数といった数値で表され、クロマグロが必要とするエサの量は他の魚の2倍から3倍、1kgの体重増加に対して15kg程度のエサが必要です。
牛や豚といった家畜が食べるエサはトウモロコシなど世界的にみても生産量が多く、飼料用としてランク分けされている安価な飼料ですが、養殖クロマグロに与えられる生エサはイワシやサバの天然資源であるため、価格や供給量が安定しません。
この二つの要素によって養殖クロマグロの生産コストはエサ代が大部分を占めており、天然クロマグロに近い価格での売却を目指す必要がありました。
人口飼料のみを使った完全養殖クロマグロの本格的なデビューは、二つの問題を同時に改善出来ると共に、養殖用のエサとして数を減らしていた天然資源の回復にも効果的であるとして注目を集めています。
■いつでも美味しい養殖クロマグロ
一部では従来の人工飼料(ペレット)よりもクロマグロが違和感無く口に出来る工夫がなされており、生エサを好むクロマグロに無理なく与える事が出来るようになりました。
生エサに比べてサイズの調整も容易に行う事ができるため、特に飼育が難しいとされる小型のクロマグロにも与える事が可能で、エサとなっていた小魚には旬や不漁がありましたが、人工的に生産出来る事でエサの品質管理もより正確に行う事ができるようになります。
食べこぼしによる水の汚れも少なくなります。
エサを正確に管理出来るようになった事でトロの部分を増やしたり旬をコントロールしたり、時期を問わず安定した品質でいつでも美味しいクロマグロを食べる事が出来るようになるかもしれません。
■商業化を支える養殖クロマグロ飼料の発展
クロマグロ用人工飼料は、魚粉と呼ばれる魚の粉が主原料です。
乾燥状態なので冷凍よりも長期間の保存が可能ですが、養殖クロマグロを育てるために天然資源を与えている構造に違いはありません。
この問題を解決するために魚粉を減らし、植物性の原料を使用して飼料を生産する研究が進んでいます。
利用が検討されている原料は大豆やトウモロコシですが、クロマグロが成長に必要とする栄養素の解明や魚食性が強いクロマグロに積極的に摂取させる方法など、完全に解明されていない部分が多いというのが現状です。
人口飼料のみで生産されたクロマグロの出荷は、人口飼料発展の大きな一歩と言えます。
原料となるイワシは、世界的な養殖事業の需要を背景に過去10年間で徐々に上昇傾向。
今後も上昇はゆっくりと続く見通しです。
現在の人口飼料は魚粉を利用していますが、成長の度合いに応じてクロマグロに口を使わせる形や状態を作る事に成功しており、原料の改善によるベジタリアン化の展望も明るいと言えそうです。
植物性の原料は生産量が安定しており再生可能な資源なので、研究が進めば生産コストの改善に期待できます。
エサが身質や味に与える影響はかなり大きく、生産コスト面だけでなく、養殖クロマグロの品質向上にも人口飼料の発展が大きな役割を持っています。
ブリやヒラメなどは柑橘類を使って魚の生臭みを抑えて人気を博した養殖魚の実例もあり、クロマグロでも植物の特長を活かした品質の改善が実用化される日が来るかもしれません。
2017年から2018年は人口飼料生産の養殖マグロが本格的に流通を迎える節目の年です。
近畿大学の近大マグロのような人気になれば手軽にという訳にはいきませんが、価格の動向やクロマグロ全体の消費や養殖クロマグロの割合は今後も要注目なのではないでしょうか。